


23日、大阪市中央公会堂・大ホールで行われたJCD(日本商環境設計家協会)と大光電機且蜊テによるシンポジウム、「それぞれのデザイン 〜ベンチでトーク〜」に参加してきました。
東京と大阪の2箇所で行われた大阪編。パネリストは、 デザインジャーナリストの山本雅也氏、乃村工藝社のデザイナーでおられる小坂 竜氏、新進気鋭デザイナーの佐藤オオキ氏、そしてゲストパネリストに建築家の関 聡志氏という方々を集め、まとめ役のコーディネーターにデザイナーの間宮吉彦氏を据えてのディスカッションでした。東京では、山本雅也氏以外は別の方々によるものだったそうです。
この企画でまずおもしろいと思ったのは、コーディネーターをデザインジャーナリストの山本氏がなさりそうなところを、間宮氏がなさったところ。“ベンチでトーク”という、バスストップのベンチでバスを待っている間の会話のような、そんな気軽さで語っていただこうというもので、また、山本氏が昨年出された著書「インハウスデザイナーは蔑称か」の内容にも関連させられる部分を引き出せるメンバーの方々であったことから、普段とは違った趣向で行われたようです。気軽といっても集まった方々が方々ですから、もちろん内容は濃いものでしたが、この趣向、楽しめるものだったと思います。
間宮氏と山本氏というと、昨年の大阪デザイナーズウィークのフォーラムの時、お二人も揃っておられ、その時にお聞きできたお話も思い出される内容もありました。
山本氏が語っておられたことで、阪神タイガース優勝の時、道頓堀を囲った塀がもっとデザインされて、堀が汚いし危ないから飛び込んではいけませんではなく、きれいだから、それを壊すように飛び込んだりができないとなればいいのに・・・というお話がありましたが、これは昨年のフォーラムでもおっしゃられていて印象に残っていました。一般に広く、大阪で“デザイン”への理解を深めてもらうのに、わかりやすい理解されやすいお話かもしれません。(あちこちでお話されることで本当に間宮氏などに、市や府あるいは周辺企業の共同出資や市民活動から、ちゃんとそれなりの対価でデザイン依頼があったらすごいですね。)
今回のこのディスカッションでは、それぞれの方々の作品についてより、それぞれの立場や経験・背景の中での仕事とデザインに対する姿勢、そういったことが興味深い内容でした。デザイナーとしても経営者としても長年の実績を積まれ世に知られた間宮氏、インハウスデザイナーとして長年の経験を経た上で個人としての高い評価も築かれた小坂氏、新しい時代の波を敏感に乗りこなし鋭い感性で短期間に世に出てこられた新進気鋭の若手デザイナーであり経営者の佐藤氏、建築業界の徒弟制度的な師弟関係から高松伸氏の事務所で長年勤められて独立された関 聡志氏、多くのデザイナーへのインタビューなどを通しデザインを綴り語る側で見つめてこられたジャーナリストの山本氏。
それぞれの視点や活動から語られるデザイン観、それぞれに確かに違いはあるのですが、その根底で突き詰められるものは似たものがあるように感じました。実はそう感じること、このシンポジウムにかぎらないのです。
デザインが好きで、デザインにこだわり、デザインと真剣に向き合っている方々がたどり着く答えは、表現は違っても同じようなものがあるように思います。経験が違う分、そこで今見えておられる部分の大きさの違いはあるのでしょうが。
とは言っても、それぞれの方々の間には、隣の芝生ではありませんが傍目から見た人の立場などがうらやましかったりなさる、そんなこともおありのようでした。間宮氏は経営はせずにデザインだけに没頭できる小坂氏がある意味うらやましいとおっしゃられていたり、小坂氏は会社にお勤めになりはじめの頃は施工監理に走り回ったりで間宮氏のような存在の方をうらやましいお気持ちもあったとかや、関氏はその作品と風体が自然体で若くして飄々と時代の波に乗っておられるよう見える佐藤氏がうらやましいとおっしゃられていたり。年代層からは離れた佐藤氏はやはり飄々とそれほど緊張するご様子でもなく(内心はわかりませんが)、でも先輩方々の様々な考えをそういう考え方もあるのか、ふ〜むといったように、例えば作品について残すといった意識についても“まだ、それほど感じていない”といった経験上“まだ”の部分も正直に語っておられたり。そして山本氏はご職業上の立場的にも、それぞれの方々について客観的にご覧になって補足を促す質問などをはさまれたりなさっていました。
大阪で行われているイベントであるのに、東京では大阪より京都が好まれるなんていうお話もありました。関氏が京都で長年お仕事されてこられた中、東京で感じられたことだったようです。これは、東京でお仕事されている小坂氏も、大阪にお仕事で来る機会はなかったけれど京都へはいらしていたりもあって、少々ショックでしたが、いにしえの都へのあこがれは全国的なものなので、大阪の魅力もより知っていただけたらなどとも感じたことでした。せっかくの大阪市中央公会堂という大阪の美しい建築物の中でのイベントでしたので、建築家の方に、そういったことも意識していただけるような情報発信も必要なのかな・・・、とも個人的に思ったりもでした。
本音が見え隠れする、ここが気軽なトークの楽しさと、新しい発見ができる部分かもしれません。
昨今、デザインが一般的には、かっこいいカタチといった表面上のことが強調され、一種の流行に乗って取り上げられるといった社会状況が見受けられます。
でもデザインは、ずっと昔から人々の暮らしの中、培われてきた行為なのです。より人が住まいやすい環境、使いやすいもの、商業活動を活発化させ経済を豊かにするための装置、それらを創り出すための人々の知恵が、“デザイン”です。
そういった部分についても、間宮氏や山本氏によって語られていました。
それぞれの意識や認識は違っても、デザインに真摯に向かっておられる方々の、その活動そのものが、そういったことを物語っているのだとも思います。インハウスデザイナーであれ、独立のデザイナーであれ、“デザイン”で目指し辿り着くことは、創りあげるものを使う人々を幸せにしたりと、同じなのではないでしょうか。
こういったイベントも広く行われることによって、デザインに関わる人々の心にデザインの意味を改めて刻み、さらに一般にも単なる流行ではないデザインへの認識を広め伝えることにもなっていけばと願うものです。