今月号の商店建築に掲載されていたお店なのだが、昨今言われている立ち呑み屋さんブームの中でも、大学生が集う場所でというところに少々興味をひかれたのだった。

【TEL】06-6330-1001
【営業時間】
PM6:00〜AM3:00
(定休日:日曜日)
【開業】2005.06.01
<内外装 全面改装>
【経営者】(有)無名屋
【設計】アライ企画
【施工】ミノル巧芸
[商店建築 2006.03掲載]
大阪・阪急沿線“関大前”のすぐ近くに、このお店はある。関西大学の学生さんや先生、職員の方々の通り道だ。
関大前駅周辺を訪れたのはかなり久しぶりのことで、もうずいぶん昔に、インテリアコーディネーターの資格試験会場が関西大学だったので、その時に訪れて以来になる。試験で頭がいっぱいではっきり覚えていないだけなのかもしれないが、その様子はそれほど大きく変化したという印象はなく、学生“街”といっても大阪市内からは外れた住宅街沿線の、今もまだまだのどかさもある場所であった。

おじさま方の寄り道御用達の赤提灯や大阪の串カツが、昔ながらの立ち呑みであったと思うが、最近は、東京のおしゃれなOLさんでも通うような立ち呑み屋さんが登場していると聞く。ブームに乗って広がりを見せているが、おしゃれさからお値段も高め設定で座るところと同じお酒や食材で勝負していると、ブームが過ぎたあとは難しいかもしれない。
そんな世間のブームに乗っているようでちょっと違うのが、このお店のような気がする。
店員さんとも集るお客さんとも、かなり年齢差のあるわたしでも、気軽に楽しく過ごさせていただけた。皆さん、とてもしっかりした、聡明な学生さん達だった。
ニーズにあった価格帯の商品を提供しながら、その空間のちょっとしたデザインは、集る人を自然に選ぶかもしれない。デザインは、そんな使われ方もある。
さりげなく店中を見せながら、内側で広がる交流の温かさも感じさせる木格子のファサード。
カウンターは上部も側面も全面タイルになっており、清潔感も保ちやすい。クリーム色の小さなつるんとしたタイルが、なんとなく“うづら”の卵を剥いたときの姿を思い出させた。
わたしの相手をしてくれた男性の店員さんは、初めて面接に訪れた時、お風呂みたいでおもしろいと思ったそうだ。お風呂というと…内容は全然違うが、佐藤オオキ氏デザインのカラオケBOXでもテーマになっていた。あれは確か、日常で歌いたくなる場所はお風呂だからというコンセプトだったが、お風呂や温泉でお酒という組み合わせイメージも、日本人は持っている。
若い人達が今、楽しみながら寛げる、自分達流の空間を求めているのかもしれない。
また、カウンターと対する壁面には、カウンターに使われているタイルと同じタイルで作られた大きさの違うボックスを、高さもランダムに配置し、それらが装飾にもなりテーブルにもなる、小さな空間をフルに活かせるデザインがなされていた。
学生の間に会社を作ろうと計画中という人、もうすぐ卒業だけど就職活動に悩んでいるという人、建築を目指していて徹夜で模型作りをしていたという人、同じ学生さんでもそれぞれの夢や人生模様もあり、また悩みもありのようだった。今、それぞれのご自身を大切にして、自分と向き合い、未来に向けて羽ばたいていってほしい、本当にそう思う。どんなことも、プラスに変えることができるのも自分。学校の勉強も、このお店で友達と語りあったことも、よい思い出としてだけではない経験として身になり、それを感じる時もきっとくるはず…。
そんな皆さんに心からのエールを送りたい。
そして卒業後も、またここで語り合う日がくる、そんなお店であり続けてほしい、そんな想い膨らむ春風を感じる夜だった。
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なかなか楽しい立ち呑み屋さんですよ。
とてもよい時間を過ごせたなぁという気持ちに
させてくれるお店でした。
阪急“関大前”駅の関西大学方面側駅前すぐ
のところにあります。