
地名としてや、ここがそうであったと、残されてはおりません。
けれど、かつて柳宗理氏デザインの歩道橋があったはずの場所です。
あったはず、というくらい、そこにあったということが残されていなかったことが、残念に思えました。
大阪・枚方市、くずはモールにその場所はあります。

京阪電気鉄道が運営する商業施設である複合型ショッピングモール「くずはモール」は、1972年に京阪本線樟葉駅前にオープンしました。松坂屋・ダイエー・イズミヤの3店舗を核に専門店を集合させた、当時ではまだ珍しかった本格的なオープンモール型の商業施設で、駅前ロータリーから延びる道路上、ショッピングモールへの橋渡しにモールとともに造られた歩道橋が柳宗理氏デザインの歩道橋だったようです。
そして、施設全体の老朽化が進み、店舗の大型化も目指されることとなり、2004年3月にいったん閉鎖。2005年4月にリニューアルオープンされました。写真は現在のもの。
その時に、同じく老朽化の著しかった氏の歩道橋も姿を消し、新しい歩道橋が造られたようです。
過去、存在したその歩道橋の姿は、
公式サイトに紹介されています。
アーチ型の歩道橋。
やさしい印象を与える優美なデザインながら、もしかすると、現在の社会状況の中、これをこの場で再現させられるかどうかは、ユニバーサルデザインといったことから考えますと、難しかったのかもしれません。けれど新しい歩道橋周辺に、過去、柳宗理氏の歩道橋があったという残像も何もなかったことが、なんだかとても残念に思えてしかたありませんでした。
歩道橋すぐ近く足元には、最初のくずはモールがオープンした時に建てられた、当時の京阪電気鉄道社長による“開物成務”という言葉の石碑がありました。一面が湿地帯であったこの地一帯を「くずはローズタウン」として開発された、その社会貢献が京阪電鉄の力によるものなのですから、それも残す必要なものでしょう。
ただ歩道橋のあった場所、それだけではなく、“ここにありましたよ”と、何か残せるものもあったのではないでしょうかと、思ってしまったのでした。
くずはモール、いいショッピングモールです。優秀なデザイナーの方によるデザインの専門店も、出店しています。店舗のデザインといったものは、建築物として残るようなものでない限り、どんどん変化し、後に残されることがほとんどないものです。そういったデザインも、確かにあります。
ですがだからこそ、日本のデザイン史にその名を残す優れたデザイナーの、数少ない環境デザインが、歴史を経てその場から完全に忘れ去られることが、これから先のデザイン史を考えてみても大きな損失のように思えてしまうのです。
現実的な実用性としては新しいものは必要であったとしても、そこで育った人の心の中(柳宗理氏の歩道橋だったことすら、ご存知でない方もおられるでしょうけれど)と、出版物や公式サイトのようなネット上にしか残らないこと、それがいずれ訪れる数々のデザインの運命であると考えるのは哀しく思えます。
時代の変化とともに、街を繁栄させていくための変化も必要なことです。
残せるものと残せないものも、確かにあると思います。
なくなってしまった後、訪れて、こんなこと書いていても遅いのでしょう。
ただ、そこを訪れて、なにも感じなかったように済ませてしまうこともできない気持ちで、こんなことを書いています。

<現在の歩道橋上からの景色>